フリーランス放射線科医松村むつみ|医療の「あいだ」をつなぐブログ

フリーランス放射線科医、医療ライターしてます。日本の医療者、病院、患者さんたち、病気に関心のある一般の方々の、「あいだ」をうまくつなげるような、そんなブログを目指しています。ときどき社会問題も扱います。

「医者でもらう薬は市販薬よりも効く」は本当?

今、風邪を引いています。喉が痛くて体調が悪いのですが、体温は37℃台前半で動けるから、インフルエンザではないのでしょう。市販薬を飲み、今日も画像診断に精を出しています。

 

よくちまたで、「医者で処方してもらう薬は市販薬よりも効く」という話がされることがあります。「医者が処方する薬」「市販薬」の内容にもよりますが、この話がはたして本当なのか、考えてみたいと思います。

 

ひとつは、世の中には、市販されておらず、医師の処方でしか買えない薬が、それなりの数存在しています。極端な話をすれば、例えば抗がん剤は、薬局で買うことはできません。安全性や長期使用の実績などから考えて、市販化して問題ないと考えられた薬だけが市販薬となっています。こうした経緯で市販薬が販売されているので、市販薬には風邪薬や、花粉症などアレルギーの薬、痛み止め、胃腸薬などが多くなっています。

 

風邪薬や痛み止めなど、よく使用する薬で、「医者の処方薬が市販薬よりも効く」ことがあり得るのでしょうか。結論を先に言いますと、「部分的には正しいこともあった」けれど、現在では、市販薬と医者の処方薬で成分が同じものも増えており、成分が同じ薬では、当然のことながら効果は同等である、ということができます。

 

たとえば、病院でよく処方される鎮痛剤でロキソニン(一般名ロキソプロフェンナトリウム)という薬がありますが、ロキソニンは2010年、市販薬として承認されました。それまでは医師の処方箋を通してしか手に入らず、市販の内用鎮痛薬と言えば、アセトアミノフェンイブプロフェンのような、より疼痛緩和作用が「弱い」ものしかなく、「医師の薬の方が効く」というような話は、間違ってはいなかったかもしれません。

 

ロキソニン(市販薬として「ロキソニンS」など)のように、病院で処方されていた薬が、安全性や使用実績などをもとに市販されることを「スイッチOTC」と呼び、スイッチOTC薬は近年増え続けています。そのため、現在では、風邪や花粉症であれば、市販薬でほぼ問題なくケアできると考えて差し支えありません。医師であるわたしも、自分の風邪薬を病院で処方してもらうことはまずなく、風邪で病院を受診することもありません。昔は、同僚などに気軽に風邪薬の処方を頼めたのですが、最近は厳しくなり、仕事を中断して外来を受診しなければならなくなったり、そもそも、画像診断医であるわたしたちには、薬剤の処方ができないシステムになっている病院も少なくありません。また、薬局で処方箋を提出すると、診療科や処方薬剤をみられますが、「放射線科」での処方となると、薬剤師さんから不思議そうな目で見られることもあります。「自分の勤務する病院で自宅用の薬を気軽に処方する」ということは、最近かなりできにくくなっています。医師でも、一般の患者さんとあまりかわらない状況となっており、わたしも今日は市販薬を飲んで、早めに仕事を切り上げて休養したいと思います。